たぶん人違い

中学3年、初恋、初デート。
地元の夏祭り。
放課後、いつも一緒の友達をうまくかわして、
一度着替えに早足で自宅へ。
頼りない音のする貯金箱から小銭をかき集め、
君の家へ向かう。
浴衣姿の君は、いつもより少し大人に見えた。
日は暮れていく。
並木道に差し込むやわらかな色の日差し。
いつもは人気のない公園に出店が並び、
にぎわいはじめる。
人ごみに流される君、その時つかんだ腕が
とても細くて、壊れそうでこわかったのを覚えている。
もうすぐ花火が始まる。
地元でも、ほとんど知られてない隠れスポット、
路地裏にある、ちいさな古いビルの屋上。
そこに向かった。
運が良い、今年は誰も来ていない。
巨大な爆発音が、
小さな街に、大きく響く。
まわりのビルの隙間から、
花火だけが切り取られずに綺麗に見える。
花火を見て喜ぶ君、それを見て喜ぶ僕。
二人だけの特等席。僕等だけの場所。
君は言った。
「来年もまたここで、二人で見ようね。」
その声は、
花火の音にかき消されて、僕には届かなかった。
そんなフリをした。
僕はその年の夏を最後に、
遠い、遠い街へ行き、
そこで暮らすことになっていた。
それを告げるのは辛すぎて、悲しくて、苦しくて・・・
だけどウソもつけなくて、
そうすることしかできなかった。
秋
新しい街にきても、連絡は取り合っていた。
けど、時が経つにつれ回数は減り、
ある年の冬にはなくなった。
あれから何年経っただろう。
君が結婚したって噂を耳にした。
悲しくはなかった。
ただ、喜びでもない、
なんともいえない気持ちになったのを覚えてる。
それからまた何年かが経ち、
僕は偶然転勤により、
この街に戻ってくることになった。
街を歩く。
変わってしまった場所、変わってない場所。
全ての景色に色々な思いが込みあがる。
公園に行った時気が付いた。
今日は夏祭り。
ただ、この年になって
一人で出店を回るのもどうかと思い、
日が暮れ始めたので
新しい家に帰ろうと思った。
が、帰っても誰かが待ってる訳でもない。
花火だけでも見て帰ろうと、
あの場所に行ってみる事にした。
ビルはまだ残っていた。
もしかしたら、
新しく建ったビルせいで
花火は見えなくなってるかもしれない。
ゆっくり階段を上がってく。
少し遅かったか、屋上に着く前だった。
あの時と同じ大きな爆発音が響く。
それと同時に、屋上から歓声が。
花火は見えるみたいだ。
少し急いで階段を上り、屋上に出た。
あの時と変わらない風景。
ただ違うのは大きくなった自分といなくなった君。
そして先客がいること。
暗くてよくは見えないが、
子供づれの若い夫婦。
そう、それはたぶん人違い。
まわりのビルの隙間から、
花火だけが切り取られずに綺麗に見える。
花火の音にかき消されて、届かないぐらいの声で
君の名前を呼んでみた。
花火が終わり、先客達よりも先に階段を下りる。
そう、それはたぶん人違い。
だけどなぜだか今、僕の心は晴れている。
新しい家に帰る僕の足取りは、
いつもより少しだけしっかりしていた。
戻る
