チェリー

夏のあいだ、海の家で働かないか?
大学の友人からの唐突な誘い。
僕はお世辞にも、
接客業には
向いているようには見えないだろうし、
実際向いてない。
別に、お金に困ってる訳でもない、
そんな仕事がしたいと思った訳でもない。
その時僕は、なんで断らなかったんだろう。。
それはきっと、
去年の夏の思い出に原因がある。
去年の夏、僕には、
生まれて初めて付き合った彼女がいた。
飲み会での勢いと周りの後押しでつきあったものの、
外に出るのが大好きだった彼女と、
世間でいう、ひきこもりがちな僕、
すぐに合わなくなって、一ヶ月ももたなかった。
彼女は、海の家で働いていた。
海の家で働けば、
ひきこもりがちな僕も
少しは変われるかもしれない。
そして、あの時の彼女に、また会えるかもしれない。
そんな期待をどこかに抱いたからだろう。
初めのうちは
声をはるのにさえ慣れなかったけれど、
徐々に仕事にもなれていき、
仕事仲間とも打ち解けていった。
仕事終わりには毎日、
みんなと夕暮れのビーチではしゃいだ。
もちろん、彼女に、会うことはなかった。
最終日、
気づけば年中色白だった僕の体は、
健康的な色に染まりきっていた。
みんなで海の家を片付ける。
残ったのは骨組みと、
入り口の横においてあった自販だけ。
僕達の仕事はこれで終わり。
Tシャツを着たままみんなで同時に海へ走り出し、
飛び込んだ。
今までで一番長かった夏が終わってゆく。
海を去る最後に、自販でコーラを買う。
沈みかけの太陽と、静まりかえったビーチに、
炭酸のハジける音が響く。
それを、
去年出逢った彼女のように、
一気に飲み干した。

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